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食物の効用・葛

葛の驚異的な生命力…世界の広範囲に分布する葛

葛は、マメ科最大のつる性多年草で、アジアの温帯原産です。葉は、3枚の小葉からなる複葉で10~15cmほどになり、花は紫紅色で芳香があり、7~9月頃、房状に群をなして咲きます。果実は、緑色の豆さや状になります。葛の花は秋の七草の一つです。葛の生命力は強大で、どんな荒地でもどんどん繁殖し、驚くほどのスピードで広がっていきます。大木でも、葛に絡みつかれると枯れてしまうほどの生命力です。
葛は、日本を始め、中国、台湾、韓国等、東アジア各国から、アメリカ大陸にまで広範囲に分布しています。日本の産地は、奈良、長野、鹿児島、岐阜、群馬、滋賀、新潟、和歌山、愛知、静岡など各地で生産されていました。現在では、奈良と鹿児島で大半が採取され、生産は主に奈良、福岡、鹿児島で行われています。
「吉野葛」「本葛粉」と表示された商品が全国で販売されていますが、100%葛の製品はほとんどないのが現状です。ジャガイモデンプンやサツマイモデンプンを混ぜたものが大半です。菓子や料理に使うのなら100%葛でなくてもよいのですが、健康保持や体質改善が目的なら本物にこだわらなければならなりません。わずかでも混ぜものがある葛を食べると病気は悪化します。場合によっては深刻な事態に陥る危険性もあります。
葛に似たもので片栗粉やわらび粉があります。片栗粉はユリ科植物のカタクリの鱗茎から抽出したデンプンです。わらび粉はわらびの根茎から抽出したデンプンです。「片栗粉」と「わらび粉」にいたっては本物は市場に皆無といってもいいでしょう。

万能の葛は上薬の代表

葛に含まれる主な有効成分は、次のようなものです。
ダイゼイン、プエラリン、ダイジン、ゲニステイン、ホルモネチン等のフラボノイド類は、ホルモンの補助、血管拡張、神経系の安定等に作用。10種以上のサポニン類は、肝臓機能の向上、血圧安定、動脈柔軟化、脂質代謝改善等の効果。β-シトステロールは、免疫力の向上、コレステロールの調整、炎症の改善。アラントインは、皮膚組織の強化。ピニトールは、肝臓機能向上、糖代謝促進に働きます。

葛の主な効果は以下です。

  • 血液を浄化する……血液中の老廃物の排泄を促し、血液細胞(赤血球、白血球など)の質を向上させる
  • 血行を促進する……血液循環が円滑になると、全身器官の機能が高まる
  • 体を温める……代謝を高め血行を盛んにするため、身体が温まる
  • 免疫機能を高める……免疫細胞の生成過程を改善するため、免疫機能が向上する
  • 体組織を柔軟にし、強靭にする……血管、筋肉、靭帯、関節などを、柔らかくし、強く
    する
  • 自律神経を安定させる……人体のあらゆる器官をコントロールする自律神経系を整え、その機能を高めることによって、全身器官の機能向上につながる
  • 内分泌機能を高める……内分泌腺から分泌されるホルモンのバランスが整い、全身器官のコントロールが安定する
  • 老化防止……老化の原因となる活性酸素、老廃物などを処理し、代謝を向上させることで、細胞が衰退するのを防ぐ
  • 炎症を治める……病気や怪我の大部分は炎症の状態にあり、その改善を促進する
  • 鎮痛……痛みの場所に血液を循環させて酸素を送り、停滞している分解産物を排除することにより、痛みが軽減する
  • 痙攣(けいれん)を鎮める……顔、首、肩などのチック症状(ピクピクと痙攣)、横隔膜の痙攣(しゃっくり)、こむら返りなど、筋肉組織の異常緊張を鎮める
  • 血圧を安定させる……硬化した血管を柔軟にし、弛緩した血管を引き締めて安定させるため、高い血圧は下がり、低い血圧は上がる
  • 血糖を安定させる……膵臓機能を向上させ、インスリン活性を高めて糖の代謝を整えるため、高い血糖は下がり、低い血糖は上がる
  • 解毒……アルコールの分解産物、アセトアルデヒドや毒虫の毒素などを分解する
  • 消化器の機能を高める……胃、腸、膵臓、胆嚢など、消化の機能を向上し、栄養素の処理(分解、吸収、同化)などを円滑にする
  • 肝臓の機能を高める……1000以上の働きを受け持つ人体最大の大きさと能力を持つ重要な
    臓器である肝臓の機能を向上させることは、血液質を高め、全身器官の機能が向上することにつながる
  • 腎臓の機能を高める……体内の老廃物をはじめ有害物質を対外に排除することによって、全
    細胞が十分機能できる内部環境をつくる
  • 副腎の機能を高める……免疫システムの要になる副腎を向上させることで、アレルギーや自己免疫疾患を改善し、感染症、癌などを防ぐ
  • 循環器の機能を高める……血液の質と循環を整えることによって、血管や心臓の組織を強化し、機能を向上させる

以上のように体全体をバランスよく改善する優れた植物です。葛は漢方薬ですが、年齢、性別、体質、病状などに関係なくだれでもいつでも摂って良いものです。このようなものを漢方では上薬(上品(じょうぼん))といい、安全で、効果的でだれもが使える薬とされてきました。病気は、上品を使って治すのが名医といわれていました。
漢方処方薬には葛を主にしたものが数多くあります。「葛根湯」「桂枝加葛根湯」「葛根黄連黄芬湯」「葛根湯加川辛夷」「升麻葛根湯」「独活葛根湯」「参蘇飲」等々。
中でも、「葛根湯」は最もよく知られています。葛根湯は、葛根を主にマオウ、ショウキョウ、ナツメ、ケイシ、シャクヤク、カンゾウを混合し、煎じて飲みます。風邪、麻疹(はしか)、急性中耳炎など熱性感染症、眼疾患、歯痛などに効果があり発汗解熱剤とされています。風邪の場合は、悪寒(寒気)、内熱(熱が内にこもっている)、首筋・肩(僧帽筋)、関節等のこり・痛みなどの症状がある初期の状態にのみ使用します。
漢方処方薬は、適切な使い方をしなければかえって害が出るものです。ところが葛を単体で食品として使う場合は、どんな食べ方をしても一切かまいません。食生活の中に葛をとり入れて、健康増進に活用するのが良いでしょう。

葛の食べ方一例…葛がき

【材料】

  • 100%の本葛
  • 水……浄水(浄水器を通した水、ミネラルウォーター)
  • 塩分……天然塩、梅醤、みそ、しょうゆ、梅干、昆布末など
  • その他、好みに応じて使用して良いもの……葛飴、蜂蜜、ナツメエキス
    ※体質によっては、使用可能なもの……みりん、メープルシロップ、抹茶、緑茶、果物

【作り方】

  • セラミック鍋または土鍋に、葛粉と味付の材料を入れる
    ※塩分は、おいしく感じる程度の量
  • 水を適量入れる……好みの硬さに調節
    ※一例……葛粉、大さじ山盛り1杯、水 150ml
  • 中火にかけ、へら、ロングスプーンなどでかき混ぜながら、加熱する(5~10分)
  • 透明感と粘りが出てきたら、出来上がり