生命の源・『ミネラル』
ミネラルは、水とともに生命を支える重要な栄養素です。体内に存在するミネラルは、全体で体重の4.35%ほどのわずかな量ですが、重要な役割を担っています。ミネラルについて明確な定義はありませんが、栄養学においては有機物を形成する元素である炭素、酸素、水素、窒素を除く他のすべての元素(無機質)がミネラルとされています。
人体を構成する主な元素は、約70種類。そのうち66種類がミネラルです。ミネラルは、過剰でも不足でも体は異常を起こします。特に必須ミネラル16種は、ひとつでも不足すると重大な障害が起きます。著しく不足すると、死を招くことすらあります。
体内に存在するミネラルのうち、とくに多く存在するカルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、イオウ、塩素、マグネシウムの7種を、主要ミネラルといいます。このうち、イオウと塩素以外のミネラルは、不足すると欠乏症(病的障害)が発生します。これら7種以外のミネラルを、微量ミネラルといいます。微量ミネラルのうち、不足すると欠乏症が発生するものは、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルト、クロムです。不足すると障害が発生するこれらのミネラルが、必須ミネラルとされています。
ミネラルは元素であるため、体内で合成することができません。したがって常に食物から摂取しなければなりません。摂取基準については、厚生労働省の方針が明確ではなく、2005年に一応の「めやす」が策定されましたがこれも暫定的であり、今後も変化していくであろうと思われます。
現代人は、ミネラル摂取量が常に不足傾向にあります。とくにカルシウムと鉄は、厚生労働省の調査によると、30年間にわたって毎年不足しているという結果が報告されています。ナトリウムは、摂取過剰と言われています。しかし実際は、大半の人がナトリウム不足です。世界保健機関(WHO)では、推奨摂取量を1日6g以下としています。これは日本の実情には合わないので、厚労省は1日摂取量を7~8gとしています。一方、カリウムやマグネシウムは、多く摂るように推奨されています。
人の身体は非常に複雑精妙であり、個人差が大きく、状況によって変動するものです。それを一律に決めることはできません。ミネラル摂取において重要なのは、質とバランスです。良質でバランスのよい総合ミネラルを含む食物を主に摂っていれば、体内でのバランスは保たれるものです。さらには健康条件が良ければ、自らのホメオスタシス(恒常性)の機能が自動的に微調整を行います。ホメオスタシスとは、人の体内環境を常に一定に保ち生命活動を円滑に維持する機能です。ホメオスタシスのレベルは、健康レベルとイコールと言ってもよいでしょう。つまり生活条件を高め正しい食生活を実践していれば、ミネラルバランスは自然に保たれるのです。
ミネラルの摂取は塩が基本
ミネラルの供給源として、最も重要な食物は塩です。塩は、人体が必要とするすべてのミネラルをバランスよく含んでいます。塩は地上の食物(植物)を摂る場合、ミネラルバランスを保つために不可欠なものです。地上の植物に含まれるミネラルはアンバランスで、とくにナトリウムが極端に不足しています。そのために塩を補わなければ健康維持ができません。
塩は、人体のミネラルバランスに近いものが適しています。最もバランスが良いのは、海水を濃縮した塩です。海水中には有毒物質も含まれていますが、長時間加熱することによって有毒物質は気化してミネラルだけが残ります。直接口にする塩は、このようなミネラルのみの「焼塩」が最適です。
塩を多量に含む味噌、醤油、梅干なども、ミネラルの供給源として欠かせません。味噌・醤油は、ミネラルのほか、ビタミン、アミノ酸、多種多様の有効成分を含んでいます。優れた自然薬にもなります。胃腸の機能を高め、腸内有用菌の繁殖を促し、腸内環境を整え、血液を浄化し、血流を促進します。肝臓、腎臓、心臓の機能を高め、血管を柔軟にして動脈硬化を防ぎ、血圧を安定させ、活性酸素を消去し、免疫力を高め、アレルギーや炎症を改善します。
良質な焼塩、味噌、醤油、梅干などを常に摂ることによって、ミネラルをバランスよく摂ることができます。
塩だけではミネラルの絶対量が不足するので、他の食物で補給が必要です。特に海藻には、バランスよく多量に含まれています。海藻に含まれるミネラルは、種類によってそれぞれ成分比率が異なるので、いろいろなものを摂るのがよいでしょう。
ナトリウムとカリウムは生命の源
ナトリウムとカリウムは、生命維持の重要な役割を担っています。ナトリウムとカリウムのバランスが少しでも崩れると、身体は正常に機能しなくなります。大きく狂うと命を失います。
ナトリウムとカリウムは、連携して細胞内外の水分のバランスを保っています。細胞膜は、ナトリウムを細胞外に出し、カリウムを細胞内に入れるという機能をもっています。血液中にナトリウムが過剰になると、血管内の水分が増えて血圧が上がり、器官の細胞は機能低下します。カリウムが過剰になると、細胞内の水分が過剰になり、器官の細胞機能は低下します。どちらの場合も、身体がむくんで冷えてきます。
末梢神経の刺激信号を中枢に伝えるときには、ナトリウムとカリウムの細胞内外の移動が電位を発生させて伝達します。
厚労省の推奨する量にしたがっていくと、ナトリウム不足・カリウム過剰になります。こうなると身体は弛緩して、体力維持ができなくなります。臓器をはじめ体内器官はみな弛緩して機能が低下します。血液とリンパの循環が悪くなり、代謝が低下します。エスカレートすれば、病気になります。低血圧、冷え症、貧血、内臓下垂、心臓機能低下、腎臓機能低下、認知症、癌など、様々な病気を引き起こすことになります。
最近では、極端な減塩をして、生野菜や果物を多量に摂る食事を実践する人が増加しています。中には、そういう食事で体調が良くなる人がいます。しかし、それは一時的な現象であって、しばらくすると病的な状態になっていくことは間違いありません。ナトリウム不足・カリウム過剰の現れです。しばらくナトリウム不足の食事を続けると、身体は順応してくる人もいます。しかしそれも限界があり、きわめて危険です。
野生の動物は、ナトリウムの再吸収機能が高いので、塩分の補給は少なくても生きられます。それでも定期的に塩分摂取しなければ、動くことができなくなります。
人のナトリウム再吸収機能(腎臓)は、99%以上ですが動物よりは低いものです。したがって常にナトリウムを補っていかなければ活動することができません。ナトリウムが限界を超えて不足すると、心臓は収縮できなくなり停止します。
ミネラルは生命維持のために重要な働きをしているので、健康維持のためには適切な摂取が大切です。