身体(機能)

汗と健康

汗の大切な役割…新常識

人の体は、夏の暑い日や激しい運動により体温が上がりすぎた時、汗を出して皮膚から気化熱をうばい体温を調節する機能があります。体温調節の中枢は脳の中心部にあり、全身の温度センサーから情報を集めてその状況に適した体温に調節します。熱を放散する器官は汗腺や血管で、熱を発生する器官は筋肉、心臓、肝臓などです。

汗は、皮膚にある汗腺から分泌され、ふつうに分泌される汗は通常無色で無味無臭です。
発汗は体温調節のためだけではなく、興奮や緊張など精神的な要因がきっかけとなって出る汗、辛いモノを食べた時に出る汗などもあります。

汗腺は「エクリン腺」と「アポクリン腺」の2種類があり、それぞれに汗の性質や汗を出す仕組みが異なります。
エクリン腺は全身に200~500万個分布しており、主に体温調節のために汗を出す汗腺です。アポクリン腺は脇の下、外耳、乳輪、下腹部から陰部など限られた部分にあり、毛根に開口部があります。アポクリン腺から出る汗は白く濁っていて、脂質やタンパク質などニオイのもととなる成分を多く含んでいます。もともとはフェロモンの役割をはたしていたともいわれています。

手の平や足の裏の発汗は、原始時代に物をつかんだり敵から逃げたりするときに、滑り止めの役割を果たしていたと考えられます。そのため物に接する面で多くの汗を出す仕組みになっています。それ以外の部位では、効率よく汗を蒸散させるための配置になっています。

汗のpHは5.7~6.5位の弱酸性に保たれており、人の肌に合うよう調節されています。ところが夏の多量の発汗時には調節が間に合わずpHがアルカリ性に傾き、肌を傷めることになってしまいます。これが夏によくある肌のトラブルなどの原因となります。

汗は本来さらさらしているものですが、不純物を多く含むとベタベタになり、肌には有害な汗となります。

いい汗、悪い汗

「いい汗」の成分は99.5%が水分でできており、さらさらとしていてニオイもありません。いい汗をかいた後は肌が弱酸性になっているため、有害菌の繁殖を抑える働きをしてくれます。いい汗は体に必要なミネラルが血液へと再吸収されるため、栄養分が失われません。いい汗は蒸発しやすく体温調節をスムーズにできます。

一方「悪い汗」とは塩分などのミネラル分を多く含む汗のことです。粘度が高く、大粒の汗として流れ出てくるため蒸発しにくく、体温調節もしにくくなります。一気に大量に出る発汗の場合は、汗腺から汗管を通り皮膚表面に出ていくスピードは速すぎて、必要な成分の再吸収が間に合わなくなり体外にもれ出てしまいます。

悪い汗をかくもう一つの原因は生活習慣です。運動不足や普段から涼しい室内で過ごしていて汗をかかない生活をしているとエクリン腺の働きが衰え、ミネラルの吸収機能が衰え、ねばねばとした汗になってしまいます。水以外の汗の成分は0.5%ほどあり、ミネラル、乳酸、尿素、皮脂、タンパク質などが含まれます。成分組成には個人差があり、また熱・運動・発汗への順応程度、ストレスの程度、体内のミネラル組成などの条件によっても異なります。

ミネラル分は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄、クロム、ニッケルなどです。

汗の要因

発汗の要因は、主に3つです。

温熱性発汗

温熱性発汗は、暑い時や運動をした時に、上昇した体温を下げるための汗です。
部位……全身(手のひら、足のうらを除く)
汗腺種……エクリン腺

精神性発汗

精神性発汗は、ストレスや緊張などの精神的な刺激によって出る汗です。
『手に汗を握る』『冷や汗をかく』という言葉は、この精神性発汗のことです。
部位……脇下、手の平、足裏など
汗腺種……エクリン腺、アポクリン腺

味覚性発汗

味覚性発汗は、辛いものや酸っぱいものを食べた時に顔や頭に出る汗で、食べ終わると引きます。

辛み成分のカプサイシンが口腔内の粘膜にある温度センサーを刺激して、熱覚とともに痛覚を生じ、発汗神経を刺激して起こるといわれています。
部位……額や鼻など
種類:エクリン腺

不感蒸泄(不感蒸散経・表皮水分喪失)

日常生活の中で自覚なく自然に少しづつ発汗しており、呼吸の際の呼気に含まれる水分と合わせて体外に蒸散する水分を『不感蒸泄』といいます。

不感蒸泄として、1日あたり皮膚から放出される水分量は500~700ml、呼気として放出される水分量は150~450mlです。発熱時に体温が1℃上昇すると、不感蒸泄の量は約15%増加するといわれています。

不感蒸泄は、汗に少量含まれるミネラルや有機質成分と化合して皮膚表面の角質層の水分を保ち、肌を保護する役割があります。

汗の匂い

汗の成分に、アンモニア、インドール、スカトール、硫化水素などが含まれていると、悪臭を放つようになります。質の悪い食品のタンパク質や油脂などが体内で分解しきらず、血液中から汗に出てくると悪臭になります。

またストレスが多いと体内に活性酸素が増加し、皮脂が酸化して加齢臭のような匂いが発生することがあります。

現代人は汗腺が退化している

昨今は、汗が十分出せずに暑さに順応できない人が増加しています。特に子供たちに多く見られます。

原因は生活習慣にあります。生活環境を人工的に操作しすぎて、人が本来備えている体温調節機能が衰えてしまうためです。その結果、免疫力、循環機能、自律神経バランスなどが、低下してしまいます。病院では新生児の時から、24度に調節された部屋に寝かされ、家に戻っても24時間コントロールされた環境で育てられていくと、汗腺は使われることがなく退化(廃用性萎縮)してしまいます。その表れのひとつが、熱中症の異常な増加です。

長い歴史の中で人は暑さ寒さに身をさらすことで、体力、抵抗力を身につけてきたのです。

汗腺の回復

適度な運動

運動を行うことで体温が上昇して汗をかきます。運動を継続していると体温上昇の負荷がかかるので熱へ順応しやすくなり、いい汗をかきやすくなります。普段から運動習慣のある人はいい汗が出やすく、熱中症にもなりにくい体になります。

汗腺を働かせるには、有酸素運動が効果的です。毎日20~30分程度、汗ばむ程度の速さでウォーキングやジョギングなどをするとよいでしょう。

日常生活でも、自然の暑さの中で汗をかく習慣が必要です。エアコンを使い過ぎないことです。

座浴で汗腺復活

座浴を行うと、全身の血流と体温が上昇して、汗腺が活発に働き始めます。1~2週間続けると、ほとんどの人は退化した汗腺が復活します。それでも汗腺が機能不全の場合は、さらに積極的対策が必要です。
座浴は半身浴とは異なります。半身浴はみぞおち(胸の下の真中のくぼみ)まで湯に浸かりますが、座浴は骨盤までです。また海塩と重曹を入れると、血行促進、代謝アップ、毒素排泄などの効果が高まります。
人体には、足、腰、肝臓、腎臓など温めると良い場所と、腸、脾臓、心臓、肺、頭など温めてはいけない場所があります。半身浴で長時間、腸を温めてしまうと、内部でタンパク質が分解されて毒素が発生することがあるので注意が必要です。

【やり方】

用意する物
◇自然塩……大さじ2杯
◇重曹………大さじ2杯
◇バスタオル…1枚

(1)骨盤(腰骨)が浸かる程度の量の湯を入れ、塩と重曹を入れる
(2)腰骨より下まで浸かるようにして20~30分ほど入る。
(3)上がる際は、湯に浸かった部分を5~10秒ほど水で流して冷やす。
※冬季は湯が冷めたら差し湯をして温度をキープする。
肩にバスタオルをかけて保温する。