がん
がんを知ることから克服への道は始まる(1)
なぜ私たちの身体に「がん」は生まれるのか
いま、がんは決して一部の人だけの病気ではありません。家族、友人、職場の人、そして自分自身—–。
誰にとっても身近な問題として、がんと向き合う時代になりました。
一方で、医学は大きく進歩しています。検査技術は向上し、手術、放射線治療、抗がん剤、分子標的薬、免疫療法など、治療の選択肢も広がってきました。
それでもなお多くの人が「なぜ、がんになるのか」「どうすれば防げるのか」「治療した後、どう生きればよいのか」という不安を抱えています。
がんについて考えるとき、私たちはつい「どの治療法がよいのか」というところから入りがちです。しかし、その前に知っておかなければならないことがあります。
それは、そもそも、がんとは何なのか。ということです。
がんを必要以上に恐れるのではなく、その正体を正しく知ること。そこから予防、早期発見、治療、再発予防、そしてその後の生き方までを考える、本当の意味での「がん克服への道」が始まるのではないでしょうか。
私たちの身体は絶えず生まれ変わっている
私たちの身体は、膨大な数の細胞によって成り立っています。皮膚、血液、胃や腸、肝臓など、多くの組織では、古くなった細胞が役割を終え、新しい細胞に置き換わるという営みが休むことなく続いています。
けがをして皮膚が傷つけば、必要なだけ新しい細胞がつくられます。傷が修復されれば、その増殖は止まります。
健康な身体では、「必要なときに増え、必要がなくなれば止まる」という精巧な仕組みが働いています。一つひとつの細胞が勝手に行動しているわけではありません。
周囲の細胞と情報をやり取りし、全体の秩序を守りながら、それぞれの役割を果たしています。
人体とは、実に見事な調和によって維持されている生命体なのです。
がん細胞は身体の「秩序」から外れていく
では、がん細胞は正常な細胞と何が違うのでしょうか。
最も重要な違いの一つは、増殖を止める仕組みが正常に働かなくなることです。
正常な細胞は、必要な数に達すれば増殖を止めます。ところが、がん細胞では細胞の増殖を調節する仕組みに異常が起こり、必要がなくなっても分裂を繰り返すようになります。
つまり、がんとは単に「細胞が増える病気」ではありません。本来は身体全体の一員として調和していた細胞が、次第にその秩序から外れ自律的な増殖を始める病気だと考えると、その本質が見えてきます。そして、その異常な細胞が増え続け一つの集団となったものが腫瘍です。
がんが恐れられる本当の理由
がんの難しさは、ただ腫瘍が大きくなることだけではありません。がん細胞には、周囲の正常な組織へ入り込んでいく性質があります。これを「浸潤」といいます。
さらに一部のがん細胞は、血管やリンパ管の中へ入り込み、血液やリンパの流れに乗って、身体の別の場所へ移動することがあります。そこで再び増殖を始める。これが「転移」です。
もともとは一つの場所から始まった異常な細胞が、周囲へ広がり、さらには離れた臓器にまで移動していく。この浸潤と転移こそが、がんという病気を複雑にしている大きな理由です。
私たちの身体には「見張る仕組み」がある
では異常な細胞が生まれたら、必ずがんになるのでしょうか。そうではありません。
私たちの身体には、異常な細胞を見つけ、排除しようとする仕組みがあります。その中心的な役割を担っているのが免疫です。リンパ球やNK細胞などの免疫細胞は、身体の中を絶えず監視し、異常な細胞を排除しようと働いています。
また細胞にはDNAの傷を修復する仕組みや、修復が困難な場合には、その細胞の増殖を止めたり排除したりする仕組みも備わっています。
つまり、私たちの身体の中では、「異常が起こる力」と「それを修復し排除する力」が常にせめぎ合っているのです。このバランスが保たれている限り、すぐに病気になるわけではありません。
がんは、自ら生き延びる環境までつくる
がん細胞も、生きて増えるためには酸素や栄養を必要とします。
腫瘍がある程度大きくなると、既存の血管だけでは十分な栄養が届かなくなります。
そこで、がん組織は周囲に新しい血管をつくらせ、そこから酸素や栄養を取り込もうとします。
これを「血管新生」と呼びます。
がん細胞は、ただ無秩序に増えているだけではありません。自らが生き残り、さらに増殖するために周囲の環境まで変化させていくのです。この性質を知ると、がんという病気が単なる「できもの」ではなく、非常に複雑な生命現象であることが分かります。
次回 第2
「なぜ正常な細胞が、がん細胞へ変わるのか
